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講話

7月6日 朝礼

おはようございます。
 10日ほど前に、福島県南相馬市の原町にあるボランティア活動の基地、原町ベースに行く機会がありました。今日は、そこで見聞きしたり感じたりしたことを少し話します。高2、高3の生徒の中には、去年や一昨年、このベースに泊ってボランティア活動をした生徒がいますが、今までここで活動をした広島学院の生徒や先生のボランティア活動に対する意識の高さ、そしてまじめな働きぶりに対して、スタッフの方から、心のこもった感謝の言葉をいただきました。仮設住宅に住む方々は、生徒の姿がお孫さんの姿と重なり、随分元気づけられたそうです。そんな話を伺って、私も大変嬉しく思いました。今年の夏にも、高1の生徒十数人が南相馬に行くと聞いています。しっかりと活動をして来てください。

 私の方は、仕事の都合で3時間ほどしか滞在時間がなかったのですが、できるだけ福島の現状を見てもらいたいというスタッフの方のご厚意に甘えて、原町ベース(事故のあった福島第一原発から北へ25㎞ぐらいの所)から原発の南の方まで、車で案内していただきました。

 原町ベースのある地域は、見た目には普通の生活が営まれていますが、車で数分走ると、住むことの許されない「避難指示区域」に入ります。この避難指示区域は、1年間に受ける放射線量によって、近いうちに住めるようになる「避難指示解除準備区域」、5年以内には住めるようになる「居住制限区域」、まだ5年以上住めるようになる見込みのない「帰還困難区域」の3つに分かれていています。
 「避難指示解除準備区域」や「居住制限区域」は、日中は自由に活動できますが、夜間寝泊りすることは禁止されています。人が戻って生活ができるように、除染作業(地面の土を数㎝ほど取り除く土木作業)が進められていました。だけど、どれくらいの人が戻ってくるのか、見通しは決して明るくないそうです。
 「帰還困難区域」は、特別な許可がないと立ち入りはできず、人影は全くありませんでした。国道や高速道路だけは車で通ることは許されていますが、走行中窓は開けないように言われました。勝手にあちらこちらに立ち入らないように、家の門や玄関、脇道への入り口等は、バリケードのような物で封鎖されていました。
 そういう所をずっと車で走って、最後に第一原発から南へ10㎞ほどの海の近くで車を降りて、付近を案内していただきました。その一帯は現在は居住制限区域ですが、長い間放射線の影響で立ち入ることができなかったこともあって、2011年3月11日に地震が起こり津波に襲われたその瞬間から、ずっと時間が止まっているような状態でした。壁や柱の一部が崩れ、部屋の中が無茶苦茶になった家々が、そのままの状態で残されていました。そこに住んでいた人は、今どこかで避難生活をされているのか、命を落とされたのか分からない。そういう家を勝手に見学していいのだろうか思いましたが、案内してくださった方は、是非しっかりと見てほしいとおっしゃいました。写真や映像では見たことのあるような光景でしたが、実際に見ると、辺り一帯に、そして1件1件の家に、音はない、動きはない、温もりもないけど、確かにその瞬間まで普通に生活が営まれていた形跡は至る所に感じられて、本当に悲しい光景でした。

 今回私は、ボランティアに行った生徒をはじめ色々な人のお陰で、短い時間にこれだけのことを経験させてもらいました。こういう現状を実際に自分の目で見ると、おそらく誰でも様々なことを考えさせられるし、被災された方々の大変さをほんの一端でも感じることができると思います。だけど、みんなが現場に行って実際にそれを見ることができるわけではない。せめて、テレビなどでそういう現状を知ることができればと思いますが、そういう報道もかなり少なくなっています。特に、福島県内には、地震と津波に加えて原発の事故で、4年たっても復興が始まらない、この先の見通しも全く立たない、そういう現状があるということを、私たちはよく知っておかないといけない。

 原町ベースは、カリタスジャパンというカトリック教会の公式の支援団体が運営をしています。そのカリタスジャパンの責任者の話を別の機会に聞くことがありましたが、その方のお話では、例えば、ルワンダに行っても、スマトラに行っても、東北に行っても、大変な事が起こった数ヶ月後には、現地の多くの人から「私たちはもう世界から忘れ去られたみたいだ」と訴えられたということでした。この「忘れ去られた」という声は、私たちの想像をはるかに超えた重みのある言葉だと思います。苦しみの中にある人のこの言葉を、しっかりと心に留めておかなければならないと、あらためて感じました。

 1学期も終わりが近づいてきました。今学期のまとめとして、期末試験の準備をきちんとしてください。それが、今みんながやらなければならないことです。試験に向かっていく雰囲気、勉強の雰囲気を、みんなで作ってもらいたいと思います。