コンテンツにスキップ

講話

3学期終業式

59期生の皆さん、中学卒業おめでとう。
 随分簡素な卒業式ですが、君たちは広島学院中学校卒業と同時に、9年間の義務教育課程の終了という大きな節目を迎えました。この9年間、君たち自身の努力ももちろんあったでしょうが、ご家族をはじめ多くの方に支えられてここまで来ることができたということも忘れないでもらいたい。そして4月からは、自分の意志と責任で高校生活を始めることになります。どんな高校生になりたいのか、どんな高校生活を送りたいのか、よく考えてもらいたい。勉強、クラブ、その他あらゆる面でより高みを目指していこうという決意を新たにして、今日の卒業証書を受け取ってください。

 さて、東日本大震災から6年が経ちました。毎年この時期だけ震災関連の報道が多くなることを、アニバーサリー・ジャーナリズムと揶揄し非難する人もいるようですが、この震災を風化させないために、こういった報道を通して当時を思い出し、現状をきちんと知ることは大切だと私は思います。
 その報道によると、今なお約12万3千人もの人が避難生活を続けています。その内3万4千人は狭いプレハブの仮設住宅での生活を余儀なくされており、また1万8千人は、自分の家ではなく知人や親戚宅に身を寄せているそうです。私たちはこういった大きな数字を聞くことに慣れてしまって、鈍感になっているかもしれませんが、本当に多くの方がいまだに私たちの想像を超えるような苦労を強いられています。しかも6年というのは、私たちの生活の時間としては非常に長い。ここにいるみんなは、6年前は小学校の1年生から5年生でした。その時間の長さも感じ取らないといけないと思います。
 
 一方、原発事故のために福島から避難したその転校先の学校で、ずっといじめに苦しんでいる児童生徒がいるという報道もよく耳にします。放射能がついている、汚いといって、黴菌呼ばわりされたり無視をされたりする。また、賠償金をもらっているだろうと言い掛かりをつけられて、金銭を要求されることもある。こういったいじめは全国各地に広がっており、震災から時間が経つにつれて状況が悪化しているという調査結果も出ているようです。自分の身を守るために、福島出身であることを隠すようになった子どもも多いそうです。
 まだまだ放射線に関する正しい情報の発信や知識の普及が不十分で、根拠のない不安や風評が社会に広がりやすいということも、いじめの背景にあるのでしょう。だけどそれだけではない。自分たちの生活の中に突然外から入ってきた転校生が、何か今までの自分たちとはリズムの合わないよそ者だから排除したいという気持ちが、言動に表れているのかもしれない。弱い立場にある相手を目の前にして、曲がった優越感に浸ろうとしているのかもしれません。いじめているつもりはなくても、相手がいじめを受けていると感じていればそれはいじめです。私たちも同じような言動で、目の前の人を苦しめることがないか、よく振り返ってみなければなりません。

 ところで、本校からは昨年の夏も多くの高1の生徒が福島や熊本にボランティアに行ったし、冬休みにも、数名の高2の生徒が福島に行きました。行動で示すというのは立派です。彼らは行ってボランティア活動をしただけでなく、被災された方や他のボランティアの方と触れ合い、また被災地の今の様子をしっかりと自分の目で見て、たくさんのことを学んだと思います。
 福島第一原発では敷地内の除染作業が進み、それに伴って現地を見学に訪れる人が増えて、この1年では8000人程にもなるそうです。事前の申し込みが必要ですが、最近は学生が集団で来ることも多いようです。東電としては、少しでも現状を見て理解してもらうために、こういった一般の見学者を歓迎しているとのことで、いいことだと思います。
 この震災に限ったことではありませんが、現地に行けなくても、正しい情報を得ることを私たちは心掛けないといけない。厳しい現実にも目をそむけず、見たくない事実もきちんと見る、そんな姿勢を持ち続けなければならないと、あらためて感じました。

 2016年度が終わります。色々なことがあったでしょうが、全体的には穏やかないい1年だったと思います。特に高2の生徒は、学校行事や活動の中心学年としてよくやってくれました。それを自信にして、4月からは学院の最高学年としての責任を果たしてください。そして他の学年の生徒も、4月から始まる新たな学校生活に、希望や期待を持ってもらいたい。この1年をよく振り返り、次をどんな1年にしたいのか、春休みにしっかりと考えておいてください。
 4月7日、57期生から62期生まで元気にここに集まって、希望を感じながら新年度を迎えることができるよう祈っています。