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講話

3学期終業式

58期生の皆さん、中学卒業おめでとう。
 随分簡素な卒業式ですが、君たちは1つの大切な節目を迎えています。今、君たちに授与した卒業証書は、広島学院中学校の3年間の課程を修了したことと併せて、9年間の義務教育課程を終了したことをも証明する証書です。そして4月からは、自分の意志で、自分で希望して、学生生活を続けるということになります。中学生から高校生へ、ただ呼び方が変わるだけでなく、中身もより高いところを目指すものへと変わっていかなければならない。そのことをよく自覚し、春休みの間に、高校生になる心の準備をしっかりとしておいてください。

 さて、東日本大震災が発生して5年が経ちました。今日は、福島第一原発の事故について、最近テレビや新聞で報道されていることを紹介しながら、少し考えてみたいと思います。
 
 福島第一原発では、毎日数千人の作業員が、廃炉に向けた作業を進めています。この5年間は、放射線や毎日増え続ける汚染水との闘いに追われていましたが、ようやくその闘いにも一定の目途が付いてきたと言われています。
 みんなも知っているかと思いますが、この廃炉の工程で最も重要でかつ難しい課題は、核燃料が溶けて格納容器の底まで落ちて固まった「燃料デブリ」と呼ばれる物を、すべて安全に取り出すということです。今はまだ、そのデブリの量がどれくらいで、どのような状態で固まっているのかといった調査もできていませんが、ようやく今年中に1号機、2号機、来年には3号機にカメラを入れて、デブリの姿を確認する予定だそうです。
 ただ、姿は確認できても、それをどうやって取り出すのか、そのためにどんな技術が必要か、さらに取り出した後どのような形でどこに保管するのかといったことも、まだ見通しは立っていません。ロボットを使えば何とかなるのではないかと私は簡単に思っていましたが、今は高い放射線量の中でも支障なく動くロボットの研究や開発が進められている段階で、まだ実用化の目途は立っていないのが現状だそうです。
 このように、5年間多くの人が懸命に関わっていても、まだ廃炉の作業は入り口の段階です。政府や東電が掲げた廃炉完了まで40年というのを最初に聞いたとき、私はその気の遠くなるような長い工程に驚きました。しかし、事故を起こしたわけではない美浜原発の廃炉作業でさえ30年はかかるということで、はたして40年で可能なのか、100年単位で考えるべきだと言っている学者もいます。

 科学技術の粋を集め、安全だと言われ続けてきた原子力発電所が、全ての電源を失ったということが原因で大きな事故を起こしました。今になって思えば、原発に限らず、我々の社会には科学技術に対する過信があったかもしれない。もちろん科学技術が万能だなどとは誰も考えていないでしょう。だけど多くの人は、高度な技術によってもたらされる便利さや快適さには目を向けるが、リスクについてはあまり考えようとはしなかったかもしれません。
 この原発事故の処理もまた高度な科学技術に頼らなければなりませんが、世界中の英知を集めてもとんでもなく長い時間がかかり、まだまだ予期せぬ困難が起こりうるというのが現実です。そんな現実の中で、何十年かかるか分からない作業を1歩ずつ地道に進めている現場の作業員や、そのための技術を1つずつ開発している科学者や技術者など、この事故の処理に自分の人生をかけて関わっている方がたくさんおられます。こういった方々の存在を、私たちは忘れてはいけないし、この方々の姿勢からも、私たちは多くのことを学ばなければならないと思います。

 2015年度が終わります。この1年、学校としては、新しい講堂や聖堂ができて、今後に向けて新たな可能性の感じられるいい1年でした。みんなもそれぞれに1年を振り返れば、良かったこと、悪かったこと、色々とあったでしょうが、1年でそれなりに成長していることと思います。
 そして、4月には1つ学年が上がります。最初に中3にも話したように、この新しい学年をどんなふうに過ごしたいか、何をしたいか、春休みの間にしっかりと考えておいてください。希望を持って、新年度を迎えてもらいたいと思います。

 では、4月7日の始業式に、56期生から61期生までみんなが元気な姿でここに集まり、新年度を始めることができるよう祈っています。