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講話

卒業式式辞

暖かな春の訪れの感じられる本日このよき日に、ご来賓の皆様をお招きして、広島学院高等学校第57回卒業式を挙行できますことは、57期卒業生やご家族の皆様、そして私たち教職員一同にとりまして、大きな喜びです。ご来賓の皆様、ご臨席有難うございます。

 57期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 6年前の4月、君たちは大きな希望と多少の不安を胸に抱きながら中体育館での入学式に臨み、担任の友弘先生、小松原先生、阪本先生、伊藤先生から一人ひとり名前を呼ばれて、広島学院の生徒になりました。
 それから6年、振り返れば色々な思い出が脳裏をよぎることと思います。およそ5500回は受けている毎日の授業をはじめ、仲間と苦楽を共にしたクラブ活動、みんなで楽しんだ体育祭や文化祭、修学旅行、さらに中間体操や放課後の掃除、日々の友達や先生との何気ないやり取りに至るまで、学校でのあらゆる活動を通して、君たちは多くのことを学び、心身ともに逞しい青年に成長して、今この学校から巣立つ時を迎えています。

 その巣立って行こうとしている今の世界は、第4次産業革命と呼ばれる変革の只中にあります。人工知能や情報伝達技術などに代表される科学技術の飛躍的な進歩は、人々の働き方やライフスタイルにも影響を与え、社会の有りようを大きく変える可能性があります。様々な分野で今までになかった新しい物やサービスを享受できるようになり、国の垣根を越えて人々に豊かさをもたらす社会が実現すると言われます。
 しかし一方で、経済格差や環境破壊、紛争、テロ、その他グローバルな観点で解決しなければならない難題が山積しています。溢れる情報の中から真実を読み解くのは難しく、自分が好むものだけを拾い見て、都合の悪い真実には目を塞ぐ風潮も広がっています。
 そういった現実の中で、技術革新の恩恵が本当に必要な人へと向けられているか、倫理感の尊重された技術革新であるか、よく見ておかなければなりません。

 こういう時代をこれから担っていく君たちには、自分の専門分野に留まらない幅広い教養と、真実をしっかりと見て正しく判断できる理性が求められます。そして文化や習慣の異なる多様な人々と、互いの価値観をぶつけ合いながらも、課題解決に向けて協働する姿勢を持たなければなりません。そのためには、自らの考えを的確に主張する力も必要ですが、同時に、相手にあって自分にないものを積極的に認め、それを受け入れる度量も必要です。
 本当の豊かさは、物との関係からではなく、人との関係から得られるものです。多様な人とのより建設的な関係、より肯定的な関係を築いていく中に、互いの幸福感は生まれてくるものです。そこで問われるのは、深い教養と磨かれた品性に裏打ちされた、人間的な魅力です。

 ところで、卒業証書授与に先立ち、マタイによる福音が朗読されました。イエスが語った「タラントンのたとえ」と言われる有名な話です。
 主人が旅に出ている間に、5タラントンを預かった僕は、それを使ってさらに5タラントンを手に入れた。2タラントンを預かった僕も、新たに2タラントンを手に入れた。しかし1タラントンを預かった僕は、それを地中に埋めて増やすことをしなかった。
 それぞれの力に応じて預けられる中で、1タラントンしか預からなかった僕は、自分の力は大したことはない、無くしたら許してもらえないと思い、地中に隠したのでしょう。それを正当化するために「主人は厳しい人だから」と言い訳をします。
 実は、1タラントンは今の価値で5千万円とも1億円ともいわれる大金です。それだけの力を持っているのに、期待を裏切って何もしなかったこの僕を、主人は「怠け者の悪い僕だ」と叱り、持っていたその1タラントンを取り上げてしまいました。
 タラントンは、英語で言うとタレント、才能や技量のことです。私たちも1タラントンの僕と同じように、自分に与えられている大きな才能に気付かず、自分は大したことはないからと言って、何もせずに地中に埋めてしまうことがあるかもしれません。そういうときに限って、人の才能を妬ましく思ったりもするものです。

 君たちは、間違いなく多くのタラントンを預かっています。それをこの学校で6年間、それぞれに磨いてきました。これからも、自分の可能性をさらに広げるために、研鑽を積み、修養に励み、そのタラントンを育ててください。そして、それを積極的に生かさなければなりません。大切なのは、どれだけのタラントンを持っているかではなく、どのように生かすべきかを正しく学び、その通りに活用することです。これから、社会の有りようは大きく変わる可能性があると言いましたが、そのような時代だからこそ、君たちの力は必要とされているし、また、活躍するべき場はたくさんあります。

 「若者の教育は世界の変革である」という強い信念を、イエズス会は450年以上持ち続けています。45年前、アルペ神父は Men for Others という生き方によって、今の世界の変革は実現されると訴えました。
 君たちが、それぞれに与えられた場で、他者のために自分のタラントンを存分に生かして、変革をもたらす存在として活躍されることを、私たちは心から期待しています。

 最後になりましたが、57期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業おめでとうございます。本校での6年の間に、ご子息は思春期という多感な時期を過ごし、皆様も何かとご苦労も多かったことでしょう。それでも毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
 57期生諸君は、これまで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてください。私からも、あらためまして保護者の皆様のご苦労に敬意を表しますとともに、皆様から頂きました数々のご支援、ご協力に対しまして、心から感謝を申し上げます。6年間、ありがとうございました。

 卒業生とご家族の皆様の上に、神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、私の式辞とさせていただきます。