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講話

10月29日 朝礼

おはようございます。
 いよいよこの週末は文化祭です。もうかなり準備は進んでいるとは思いますが、実際のところどうなのでしょうか。「どうぞご来校ください」と案内を出して来ていただくのだから、充分に楽しんでもらえるよう、心を込めて最後まで一生懸命に準備をしてください。

 さて、1ヶ月ほど前のことになりますが、京都大学の本庶佑特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞するという明るいニュースがありました。受賞理由は「免疫の働きの低下を防ぐ癌治療法の発見」ということです。
 人間の体には病気を攻撃する「免疫力」が備わっていますが、異物を攻撃する免疫細胞の表面で働くPD-1というタンパク質があって、それが癌細胞の一部と結合することで、そのがん細胞への攻撃にブレーキをかけていることを、本庶先生やそのグループが突き止めました。そして、このブレーキを外すことで、自分の免疫力で癌を治すという新しい道を切り開いたということだそうです。この発見により新しい薬が開発され、一部の癌で効果が実証されています。

 本庶先生はもともと癌の専門家ではなく、免疫学などの基礎医学といわれる分野で活躍しておられましたが、1992年にPD-1を見つけたことが、今回の受賞のきっかけとなりました。そこから新しい薬ができるまでについてのインタビュー記事を簡単に紹介すると・・・

 PD-1の発見は全くの偶然で、癌治療に繋がるとは思ってもいなかったが、何か新しいことをしている物質だということははっきりしていたので、このまま研究を続ける価値はあると確信はした。
 それで、専門の研究者の協力も得て研究を積み重ね、6年かけてPD―1が免疫にブレーキをかけていることを突き止め、癌治療にも生かせるのではないかという期待を持つようになった。
 そこからさらに4年をかけて、そのブレーキを外すことが癌の治療に効果をもたらすということが確認でき、新しい薬を作ること(創薬)への期待が高まった。しかし当時は、免疫療法で癌が治るとは誰も信じていない時代で、莫大な費用のかかる新薬の開発に興味を持つ企業はほとんどなかった。
 それでも諦めずに国の内外で協力してくれる企業を探し、ようやく4年後に薬の臨床試験(治験)が始まり、それから8年、2014年に新薬の発売にこぎつけた・・・とのことです。

 基礎研究の過程での偶然の発見と、これは必ずものになるという確信から、地道な研究と努力を積み重ね、22年かけて実際に大きな成果を生み出したということになります。

 基礎研究とは、ある辞書には「将来の革新的な技術や素材の開発に繋がるような新しい理論の発見を求めて行う研究活動」とあります。ただ、将来の何かに繋がるような画期的な発見は、狙ってできるものではないけど、それでも研究活動の原動力となるのは、科学者自身の純粋な科学的好奇心だとのことです。以前、基礎研究に携わる卒業生に「その研究は何の役に立つのか」と聞いたら、またその質問かというような表情で「何に役立つかは分かりません」という答えが返ってきました。大事なことは、一見無駄かもしれない裾野の広い研究があって、高い到達点が見えてくるということです。

 ところで、中学生や高校生がやるべき勉強も、この基礎研究と意味合いの似ているところがあるように私は思います。みんなは、毎日色々な科目の勉強をしなければならない。その1つ1つが、将来何に役立つのかというようなことではなく、裾野を広げてより高い到達点を目指すという意気込みで取り組んでもらいたい。それだけの能力をみんな持っているはずですが、今回の中間試験の結果を見ると、大変物足りない生徒が結構目立ちます。人に言われなくても自分でよくわかっていると思いますが、今までの自分とは一味違う新しい自分を目指して、何かを変えないといけない。それができれば、その先には色々な可能性が見えてくるはずです。
 文化祭の準備ももちろんやらないといけないけども、中間試験の振り返りもきちんとやっておいてください。