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講話

1学期終業式

今日で1学期が終わります。学期中に10連休があり、時代が平成から令和に変わりましたが、学校としては比較的穏やかな1学期だったと思います。みんなにとってはどんな1学期だったか、それぞれよく振り返ってもらいたい。自分自身、こういうところは成長したなといえるような点を、見つけてもらいたいと思います。

 さて、先日JAXAの探査機「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウの地中のサンプル採取に成功したとみられるというニュースがありました。
 中2以上の生徒は覚えていると思いますが、昨年5月に、本校の34期卒業生で、このプロジェクトの技術的取りまとめ役という重責を担っている佐伯さんを学校にお招きして、講演をしていただきました。テレビで「はやぶさ2」のニュースがあれば、たいてい佐伯さんの生き生きした姿も映っています。
 そのテレビや新聞の報道の中で、特にこのプロジェクトの舞台裏に関するものを見て、あらためてすごいなと思うことがいくつかあります。その1つ、1度目の着陸に成功した後、今回の2度目の着陸に挑戦をするかどうかの決断に関連して、少し話したいと思います。
 既に一度着陸をして小惑星の表面のサンプルは採取したとみられ、これを地球に持ち帰ることができれば、このプロジェクトは充分に成功したといえる。一方で、この小惑星に、安全に着陸できるだけの平らな場所がほとんどないということもあり、2度目の着陸に失敗をして探査機を失うリスクを考えると、挑戦せずに戻ってくるという選択肢もあるのではないかということです。

 プロジェクトチームのメンバーは、探査機の動きをコンピューター上で再現するシミュレーターを使い、どんなトラブルが発生しても対応できると言えるほどまでの訓練を、2年間に渡って積んできました。その訓練とは、外部の専門家が、数百通りも考えられる仮想のトラブルのうちのいくつかを組み合わせて設定した様々な困難な状況に対して、チームのメンバーが、管制室でそのトラブルの原因を究明し、対処するという実践的なものだそうです。
 この訓練の結果、初めて見るようなトラブルに対しても、チーム全体で自信を持って的確に対応できるような状態になったとのことです。

 チームのリーダーは、それだけの訓練を積んだという実績を踏まえ、外部の有識者の意見も聞いた上で、2度目の着陸挑戦への意思を固めます。ところが、2度目の挑戦を正式に決めるつもりでいた会議の席上で、宇宙研究所の所長という組織のトップが、80人のプロジェクトメンバーを前にして「2回目をやらずに、帰って来てはどうか」と提案したそうです。
 この所長さんは、前回のはやぶさプロジェクトで中心的な役割を果たされた方です。7年前に、本校の文化祭で初代はやぶさでの体験について講演をしてくださいました。

 「1回目の着陸を上回る危険性がないことを数字で示せ」と所長から言われて、チームは、あらためて着陸計画の実現可能性のデータを綿密に計算し直し、それをもとにあらゆる条件でのシミュレーションを、2週間にわたって10万回実施しました。そして全て「成功」という結果を出し、高度な安全レベルを所長に示して、着陸実施の了解を得たそうです。

 所長さんは、後にこう仰っています。「このプロジェクトは、小惑星の表面のサンプルを地球に持ち帰ることが最大の目的であり、それに失敗すると、後に続く宇宙研究に大きな遅れが生じてしまう。その責任を、プロジェクトメンバーに押し付けるわけにはいかない。やりたいという気持ちは分かるが、着陸にリスクが伴う以上、挑戦に対する否定的な意見をあえて出すのが、所長としての自分の役割だ」と。

 このプロジェクトについて、科学技術のすごさというところに目がいくかもしれませんが、実際には、挑戦への執念を感じさせるような地道な訓練により、メンバー一人ひとりが高度な技術を身につけていたこと、また、その技術に対するリーダーたちの冷静で厳しい評価があったということを、学ばないといけないと思います。
 そして、まだこれからも困難はあるでしょうが、無事地球に戻ってくるのを楽しみにしたいと思います。

 夏休みが始まります。勉強や部活も含め、夏休みに自分はこれだけのことをやったといえるような何かに挑戦してもらいたい。「はやぶさ2」の話は、失敗のリスクを徹底的に抑えて挑戦を決行したということですが、みんなは、まだまだ失敗から学ぶことはたくさんあります。失敗や挫折は成長のチャンスなので、恐れず挑戦をしてもらいたい。「どうせ自分はダメ。この程度でいい」という言葉が、最も自分を成長から遠ざけてしまいます。そんな言葉とは無縁の夏休みを過ごしてもらいたいと思います。
 9月2日の始業式に、全員が元気に顔を合わせることができるよう、いい夏休みを過ごしてください。