新入生・71期生の皆さん、広島学院中学校への入学、おめでとうございます。ようこそ、古江の丘へ。
先月末、制服などの備品配布がありました。その際、保護者には任せず、全ての荷物を両手に荷物を目一杯持った入学予定者を見かけました。「自分で全部持って、偉いね」と声をかけると、その子は「自分のものなので」と照れ臭そうに言いながら、私の前を去っていきました。その細くも頼もしい後姿を見送りながら、彼の「さあ、中学生になるぞ!学院生になるぞ!」という意気込みを感じ、私たちも今日この日を迎える準備に気が引き締まりました。
保護者の皆様、お子様を本校に託してくださったことに、深く感謝申し上げます。皆様が12年間、大切にお育てになられた71期生193名のメンバーは、私たちにとっても大切な仲間・家族です。6年間、責任をもってお預かりいたします。
さて、皆さんが中学生となったこの2026年、世界は驚くべきスピードで変化しています。スマホやタブレットや身近なAIは、かつて私たちが魔法だと思っていたことを当たり前にやってのけます。読めない漢字があればカメラを向ければいいし、難しい課題の答えも、AIに聞けば数秒で「正解らしきもの」が返ってくる。分からないことがあれば瞬時に答えが見つかり、効率よく物事を進めることができる、非常に便利な時代です。
しかし、そんな時代だからこそ、私は皆さんが広島学院で学ぶ6年間の間、「答えがすぐに出ないことに対して、どれだけ心を砕けるか」といことに心を留めてほしい、と考えています。
画面の向こう側の情報は綺麗に整理されていますが、皆さんの目の前にいる友人の心、あるいは自分自身の心は、決して整理されているわけではありません。例えば、隣に座っている友人が、ふと見せた小さなため息。画面の中の絵文字ではなく、その「生身の表情」に含まれた、言葉にならない不安や寂しさに、皆さんはどれだけ気づけるでしょうか。
効率や正解だけを急ぐと、こうした「小さなサイン」は見落とされてしまいます。友人とぶつかり、悩み、言葉に詰まる。そんなすぐに答えが出ない「割り切れない思い」の中にこそ、人間としての成長の種が隠されています。AIには決して理解できない、その「割り切らなくていい不器用な思い」に寄り添うことに、人間としての本当の豊かさがあるのです。
先ほど、聖書が朗読されました。
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門を叩きなさい。そうすれば、開かれる」。
これは「願えば楽に手に入る」ということを言いたい言葉ではありません。
「道が開くまで、諦めずに求め、探し、叩き続けなさい」という、強い励ましの言葉です。
これから始まる中学校生活では、一度の挑戦では門が開かないこともあるでしょう。
・一生懸命勉強しても、思うような結果が出ないかもしれない。
・クラブ活動でレギュラーになれず、悔しい思いをするかもしれない。
しかし、そんなときにこそ、諦めずに叩き続ける。その泥臭いプロセス自体が、皆さんの魂を鍛え、本物の強さを育てていきます。神様は、阿弥陀様は、アッラーは、ヤオヨロズの神々は、皆さんが真剣に求めるその姿を、必ず見ていてくださいます。
そして聖書は、こう締めくくられました。
「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。」
これは、本校が大切にしている「for Others, with Others」の精神の根本ともなる言葉です。「人にしてもらう」のを待つのではなく、まず自分から動く。例えば、
・重い荷物を持っている人がいたら、そっとドアを開けて待ってあげる。
・仕事で疲れているお母さん、お父さんに代わって、黙って夕食のお皿を言われずに洗う
・ため息をついている友人に「どうしたの?」と声をかけてみる。
・クラスで一人でいる仲間に、「おはよう」と微笑みかける。
そんな小さなことでいいのです。自分がされて嬉しいことを、まず自分から。その一歩が、この広島学院を、そして世界を、より温かい場所に変えていく力になります。相手の喜びを自分の喜びとし、相手の痛みを自分の痛みとして想像すること。皆さんのその心の広がりこそが、この複雑な時代を照らす光になります。
広島学院は、単に知識を詰め込む場所ではありません。皆さんそれぞれが持つ「唯一無二のタレント(才能)」を発見し、それを「誰のために、何のために使うべきか」を考え、学ぶ場所です。そのことを6年間忘れずに、学校生活を楽しみ、学び続けてください。
新校舎建築にあたっての私たちのスローガン「FORWARD AGAIN(もう一度、前へ)」には、何度つまずいても、そこから光を見出し、再び前を向いて歩き出そうという決意が込められています。広島学院には、共に門を叩き、共に励まし合う同じ志を持つ友がいます。そして、皆さんを支える教職員がいます。失敗を恐れる必要はありません。だから、安心して、毎日新しいチャレンジに挑んで下さい。今日という日を、新しい自分に出会うための第一歩としましょう。
保護者の皆様、改めてお祝い申し上げます。
今日から始まる6年間、お子様は心身ともに劇的な変化を遂げます。時には親の手を離れようと、激しい嵐のような反抗を見せることもあるでしょう。あるいは、自分の殻に閉じこもる日もあるかもしれません。しかし、それは彼らが「自分の足で立つ」ために必要な、健全な成長痛です。
どうか、ご家庭は彼らにとっての「安全な港」であってほしいと願っております。外の世界で荒波に揉まれて帰ってきた時、そこには変わらぬ愛情と、温かい食事があり、静かに見守ってくれる大人がいる。その安心感があるからこそ、彼らは再び、勇気を持って海へと漕ぎ出すことができるのです。
私たち広島学院の教育は、学校とご家庭が、信頼の絆で結ばれた「共育(共に育む)」のパートナーであってこそ、その真価を発揮します。時には私たちも、保護者の皆様に協力をお願いすることがあると思います。共に悩み、共に喜び、同じ方向を向きながら、ご子息の伴走ができれば、と思っております。
これから始まる6年間が、新入生の皆さんにとって、そしてご家族の皆様にとって、神様の豊かな祝福と慈しみに満ちた、輝かしいものとなりますことを祈念いたしまして、私の式辞とさせていただきます。
2026年4月7日
広島学院中学校・高等学校
校長 阿部 祐介