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講話

卒業式式辞

 暖かな春の訪れの感じられる本日このよき日に、ご来賓やご家族の皆様をお招きして、広島学院高等学校第60回卒業式を挙行できますことは、本校にとりまして大きな喜びです。
 新型コロナウイルス感染症対策のため、在校生は生徒会長だけの参列となり、また多くのご家族の皆様には2階席での参列をお願いすることになりました。舞台しか見えないような席で申し訳ありませんが、ご臨席の皆様とともに、60期生の門出をお祝いしたいと思います。ご来賓の皆様、ご家族の皆様、ご臨席ありがとうございます。

 60期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 6年前の4月、君たちは、大きな希望と多少の不安を胸に抱きながら中体育館であった入学式に臨み、担任の先生から一人ひとり名前を呼ばれて、広島学院の生徒になりました。
 それから6年、振り返ればたくさんの思い出が脳裏をよぎることと思います。ただ、感染症拡大の影響で昨年3月に突然休校になり、君たちにとって大切な思い出になるはずだった修学旅行やクラブ活動等の大会が中止になりました。6月に学校が再開された後も例年通りのことはできまず、苦労や戸惑いも多々あったことと思いますが、それでも君たちは、日々学校生活に励みました。この1年も含め、6年間、君たちはたくさんのことを学び、多くを経験し、心身ともに逞しい青年に成長して、今、この学校から巣立つ時を迎えています。

 その向かって行こうとしている今の世界は、人工知能や情報伝達技術などに代表される科学技術の飛躍的な進歩により、かつてないスピードで変化しています。今後10年の間にも、様々な分野で今までになかった新しい物やサービスを享受できるようになり、人の働き方や社会の有りようまでも、大きく変わると言われています。
 そんな社会を想像すると夢が広がりますが、一方で、ただ便利さや快適さを追い求めるだけで私たちの生活が本当に豊かになるのかどうかは、よく考えなければなりません。
 今、コロナ禍という困難の中にあって、私たちは人との関わりの中で生きていることを、あらためて強く感じます。そして、人との繋がりから生まれる温かさが自分の大きな活力になること、また、支えられていることに対する感謝の気持ちが互いの心を穏やかにすることを、体験しています。
 このように、本当の豊かさは物によってもたらされるものではなく、人と人との誠実な関係から生まれてくるものです。この学校が目標としているmen for others, with others は、この観点から、人との関わり、特に立場の弱い人との関りを積極的に持つようにと促しています。君たちにはこれからも、この目標を心の内にしっかりと持ち続ける者であってもらいたいと願っています。

 ところで卒業証書授与に先立ち、マタイによる福音書が朗読されました。その個所を少し振り返ってみます。
 主人が旅に出ている間に、5タラントンを預かった僕は、それを使ってさらに5タラントンを手に入れた。2タラントンを預かった僕も、新たに2タラントンを手に入れた。しかし1タラントンを預かった僕は、地中に隠して増やすことをしなかった。自分には増やすほどのものはないと思ったのか、或いは、苦労よりも楽をすることを選んだのかもしれません。
 実は1タラントンは、今の価値で5千万円とも1億円とも言われる大金です。それだけのものを持っているのに、期待を裏切って何もしなかったこの僕を、主人は「怠け者の悪い僕だ」と叱り、持っていたその1タラントンを取り上げてしまいました。
 タラントンは英語でいうとタレント、才能や技量のことです。この福音は、与えられた才能やそれを使って出した結果を人と比較しても意味がない。皆、十分な才能を持っているのだから、それを磨き、価値のあることに惜しみなく使うことが、自分自身をも幸せにするのだと教えています。

 イエズス会は「若者の教育は世界の変革である」という強い信念を持って、世界中で教育活動に携わっています。一人ひとりが自分の持つタラントンに気付き、それをさらに磨き、誰のためにどのように使うべきかを学び、そして実際に正しく使う。そうすれば、この世界をより善い世界に変革できるという信念です。
 君たちは、間違いなく多くのタラントンを預かっています。それを6年間、この学校で磨いてきました。これから世界は大きく変わろうとしている、そのような時代だからこそ、君たちの持つタラントンを必要としている場は、世界中にいくらでもあります。
 君たちは、世界の変革の一翼を担う若い力として期待をされています。その期待に応えようという高い志を持って、これからも自己の研鑽と修養に励んでください。この世界の現実を広く正しく見るための知性と感性を、益々高めてください。文化や習慣の異なる多様な人々と課題解決のために協働する姿勢を、さらに育ててください。そして、men for others, with othersを実践する善きリーダーになってくだきい。
 君たちが、それぞれに与えられた場で、自分のタラントンを存分に生かして活躍されることを、私たちは楽しみにしています。

 最後になりましたが、60期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業おめでとうございます。
 皆様にはこの6年間、楽しい思い出がたくさんある一方で、ご苦労も少なくなかったのではないでしょうか。思春期という多感な時期を過ごすご子息に、戸惑われたことがあったでしょうし、親離れ、子離れの苦しみを味わわれたこともあったでしょう。それでも皆様は、毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
 60期生諸君は、今まで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてください。
 私からもあらためまして、保護者の皆様のこれまでのご苦労に敬意を表しますとともに、皆様からいただきました数々のご支援、ご協力に対して、心から感謝を申し上げます。6年間、ありがとうございました。

 卒業生とご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。