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講話

卒業式式辞

暖かな春の訪れの感じられる本日このよき日に、ご来賓の皆様をお招きして、広島学院高等学校第58回卒業式を挙行できますことは、58期卒業生やご家族の皆様、そして私たち教職員一同にとりまして、大きな喜びです。
 また、この58期生の卒業を、ちょうど50年前に卒業された8期生の皆様が、1階席後方から見守って下さっています。50年前というと、大学紛争が激化し、東京大学の入学試験が中止になった年でした。
 ご来賓の皆様、そして8期生の皆様、ご臨席ありがとうございます。
 
 58期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 6年前の春、君たちは、少し大きめの 真新しい制服に身を包み、おそらく大きな希望と多少の不安を胸に抱きながら中体育館での入学式に臨み、担任の蔵本先生、藤代先生、松村先生、金原先生に一人ひとり名前を呼ばれて、広島学院の生徒になりました。
 それから6年、振り返れば色々な思い出が脳裏をよぎることと思います。毎日の授業をはじめ、仲間と苦楽を共にしたクラブ活動、みんなで楽しんだ体育祭や文化祭、修学旅行、さらに友達との何気ない会話や先生とのやり取り、中間体操や掃除に至るまで、学校でのあらゆる活動を通して君たちは心身ともに逞しい青年に成長し、今、この学校から巣立つ時を迎えています。

 その巣立って行こうとしている今の世界は、情報化やグローバル化などによる社会の変化が加速度的に進んでいます。特に様々な判断を的確に行う人工知能や、あらゆる物をインターネットで結んで情報のやり取りする技術の進歩は、私たちの生活のみならず職業や生き方そのものにも、大きな影響を与えると考えられています。色々な分野で、今までになかった新しい物やサービスが提供されるようになり、人々に豊かさをもたらす社会が実現すると言われています。
 しかし一方で、環境破壊や経済格差、難民問題、その他国の垣根を越えて解決しなければならない難題が山積しています。そういった課題を前にして、新しいものやサービスにより、私たちの生活が便利で快適なものになったとしても、それで本当に豊かになったと言えるのか、或いは本当の豊かさとは何か、これもまた今の時代を生きる私たちにとって重い課題です。

 こういう今の時代に必要とされる人物像を、イエズス会は c から始まる4つの単語で表しています。 君たちにも創立記念式で紹介しました。
 まず competence 幅広い知見に基づく豊かな教養を持ち、多様な人々と課題の解決に向けて協働できる有能な人。次に conscience この世界の現実を正しく見て、良心の声に耳を傾けて行動する人。そしてcompassion 人間の尊厳を理解し、特に弱い立場の人を大切にする慈しみ深い人。最後にcommitment 愛と正義の実現のために実際に働く人。
 この4つの c の卓越した者になるために、君たちはこの学校で様々なことを学び、体験してきました。これからもより高い志を持って、ますます自己の研鑽と修養に励まなければなりません。
 イエズス会は「若者の教育は世界の変革である」という強い信念のもとに、450年以上にわたって、世界中で教育活動に携わってきました。広島学院で6年間を過ごした君たちも、世界の変革の一翼を担う確かな力として、期待されています。

 ところで、卒業証書授与に先立ち、ヨハネによる福音が朗読されました。イエスが十字架上で亡くなる前夜、最後の晩餐を終えて弟子たちと共にゲッセマネという園へ向かう途中、弟子たちに語った別れの説教の一節です。その個所を少し振り返ってみます。
 ぶどうの木の枝は、その幹にしっかりと繋がっていれば、幹からの栄養分によって命を保ち、さらに成長し、多くの実を結びます。同じように私たちも、イエスという「ぶどうの木」にしっかりと繋がっていれば、豊かに実を結ぶことができると教えています。
 ではどのような実を豊かに結ぶのでしょうか。聖書の別の個所に「結ばれる実は愛であり、喜び、平和、寛容、親切、善意、誠実、柔和、節制」とあります。すなわち、愛を土台にした生き方に通じる実です。「互いに 愛し合いなさい」これは イエスの命令です。

 ささやかなことでも人の役に立つことができたとき、そして特に立場の弱い人に少しでも喜んでもらうことができたとき、自分自身も喜びのうちにあり幸せを感じるということを、私たちは体験的に学んできました。”Be men for others, with others.”は、この「ぶどうの木」に結ばれる実です。
 君たちは今まで、広島学院の生徒として、このぶどうの木に繋がっていました。これからも広島学院の卒業生として、また世界にあるイエズス会学校の出身者として、このぶどうの木に繋がるように招かれています。この招きに応じてしっかりと繋がり、心のよりどころ、存在の基盤となる栄養分を充分に吸収して、豊かに実を結んでもらいたい。
 そしてよきリーダーになって、社会の変革に取り組んでもらいたい。よきリーダーとは人に仕えるリーダー、人のために自分の能力を惜しみなく発揮するリーダー、地位や立場でではなく自身の生き方で人を導くリーダーのことです。
 よきリーダーとなって、それぞれに与えられた場を、愛と正義に満ちた平和な社会へと導いてください。君たちの活躍を、私たちは楽しみにしています。

 最後になりましたが、58期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業おめでとうございます。
 おそらく保護者の皆様は、ご子息が思春期という多感な時期を過ごす中で、親離れ、子離れの苦しみを経験されたことでしょう。反抗期まっただ中のご子息に、腹立たしい思いをされたこともあったでしょう。それでも毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
 58期生諸君は、これまで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてください。
 私からもあらためまして、保護者の皆様のご苦労に敬意を表しますとともに、皆様から頂きました数々のご支援、ご協力に対しまして、心から感謝を申し上げます。6年間ありがとうございました。

 卒業生とご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。