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講話

卒業式式辞

59期生の皆さん、卒業おめでとう。心からお祝いを申し上げます。
 6年前の春、君たちは大きな希望と多少の不安を感じながら、当時はまだ中体育館であった入学式に臨み、担任の先生から一人ひとり名前を呼ばれて、広島学院の生徒になりました。
 それから6年、振り返れば色々な思い出が脳裏に蘇ることと思います。毎日の授業をはじめ、仲間と苦楽を共にしたクラブ活動、みんなで楽しんだ体育祭や文化祭、修学旅行、その他日常のあらゆる活動を通して、君たちはたくさんのことを経験し、多くを学び、心身ともに逞しい青年に成長して、今この学校から巣立つ時を迎えています。

 その巣立っていこうとしている社会は、ますますグローバル化が進むとともに、人や物をインターネットで繋げる IoT 技術の普及により、様々な知識や情報が共有される新しい社会へと変貌しつつあります。これまでにはなかった新たな価値が社会にもたらされ、人の生き方や働き方を含めた社会全体の構造までも大きく変わる可能性があります。
 君たちは、このような変化の大きい社会で存分に生きていけるように、これからも自分の専門分野に留まらず、自ら幅広く学び、広い視野で社会を見て正しく判断する高い見識を身につけなければなりません。
 そして、文化や習慣の異なる多様な人々と、課題解決に向けて協働する姿勢が求められます。そのためには、自分の考えを的確に主張する力も必要ですが、同時に、相手にあって自分にないものを積極的に認め、それを受け入れる度量も必要です。

 一方で、昨年秋に来日されたローマ教皇フランシスコが仰ったように、今の世界には、経済格差、環境破壊、地域紛争といった命を守るために解決しなければならない難題が山積しています。命を守るとは、ただ命を失わないように守るだけではなく、尊厳のある生き方ができるように守るということです。
 フランシスコ教皇は、そんなこれからの時代を生きる若者たちに対して、「何が正義であり、人間性にかない、全うであり、責任あるものかといったことに関心を持つ誠実な人になってください」と仰いました。現実に目を背けない、誠実な人です。

 イエズス会は、「若者の教育は世界の変革である」という強い信念のもとに、世界中で教育活動に携わってきました。そのイエズス会の教育が、今目指しているのは、フランシスコ教皇の仰る「命の尊厳が守られる世界」への変革であり、“men for others, with others” という生き方によって実現されるものです。
 イエズス会学校で6年間学んだ君たちは、豊かな知性と誠実な態度で、世界の変革に関わる力となることを期待されています。

 ところで、卒業証書授与に先立ち、マタイによる福音書が朗読されました。その個所を少し振り返ってみます。
 イエスは群衆に向かって、「あなた方は地の塩である」「あなた方は世の光である」と言われました。「地の塩でありなさい」とか「世の光になりなさい」というのではなく、「地の塩である」「世の光である」と言われました。
 適量の塩は、命を保つためになくてはならない。調味料としても、自身の味を主張するのではなく食材そのものの味を引き立てる。同じようにあなた方も、なくてはならない存在として、様々な方法で、様々な形で、人のために自分を役立てることができるはずだ。
 また、山の上にある町は、いつも隠れることなく道しるべの役割を果たしている。燭台に置かれたともし火は、自分を誇示するためではなく、周りの存在を輝かせるために自身を灯している。同じようにあなた方も、ありのままの姿で輝いているのだから、多くの人を照らし、希望へと導く光になることができるはずだ。
 イエスは、このように私たちに教え、私たちを励ましておられるのではないでしょうか。

 君たちはこの6年間、多くの仲間とともにたくさんのことを経験し、学び、学院生としての本分を全うしました。この広島学院での6年を糧に、これからもマジスの精神で高い志を持って研鑽を積み修養に励んでください。卒業しても、広島学院の校歌にある通り、4つの宝を胸に温め、理想を貫き生きてください。君たちが、地の塩、世の光として、世界の変革の一翼を担う確かな力となって活躍されることを、私たちは楽しみにしています。

 最後になりましたが、59期生の保護者の皆様、ご子息のご卒業おめでとうございます。皆様にはこの6年間、楽しい思い出がたくさんおありでしょうが、ご苦労も多かったことと思います。反抗期まっただ中のご子息に戸惑われたことがあったでしょうし、親離れ、子離れの苦しみを味わわれたこともあったでしょう。それでも皆様は、毎日お弁当を持たせ、健康に気遣い、ご子息の成長を願われたことと思います。
 59期生諸君は、今まで君たちを励まし支えてくださったご家族に、今日、きちんと卒業の報告をし、感謝の気持ちを伝えてください。
 私からもあらためまして、保護者の皆様のご苦労に敬意を表しますとともに、皆様からいただいた数々のご支援、ご協力に対しまして、心から感謝を申し上げます。6年間ありがとうございました。

 卒業生とご家族の皆様の上に神様の豊かな祝福がありますよう祈りつつ、式辞とさせていただきます。